本書は「思想史講義」シリーズ明治Ⅰ、明治政府の文書から特徴的な言葉をとりあげ検討、難解なテキストから頭の中を覗いてみたものです、共同編者の山口輝臣は東京大学大学院博士課程修了、東京大学教授、専門は日本近代史、福家崇洋は京都大学大学院博士後期課程研究指導認定退学、京都大学教授、専門は近現代日本社会運動史
1王政復古ー清水光明
明治維新と「王政復古」、メディア環境の変化ー起点としての天保13年6月令ー統制緩和、尊王攘夷思想の展開と機能ー徳川家康の事績称え攘夷を迫る、①徳川総業への「復古」構想、②遡行する「復古」構造ー武家政権‣摂関制以前へ、③後藤象二郎の西欧モデル「王政復古」構想の展開ー議会設立と大政奉還、「神武創業ノ始」への「復古」ー同床異夢の受け皿
祭政一致⁻山口輝臣
政教一致ではなく祭政一致、王政復古・神武創業・祭政一致、祭政一致の起源ー北畠親房「神皇正統記」ー祭政同訓説で①中臣氏②上古、変転する祭政一致ー闇斎学と水戸学ー①祭政一致は「上古」から今に至る②天皇が祭りの中心、政はマツリゴトにあらずー本居宣長の破壊的含意、祭政一致と神祇官ー明治維新、天皇親政で祭政一致は継続
公議ー奈良勝司
「公議」と「公儀」、幕末政局と政治参加枠の拡大ーペリー来航で情報公開と意見聴取、建白や上書が流行、議会構想の系譜ー越前藩の横井小南、土佐藩の公議政体論、「言路洞開」がなかば実現すると「衆議」の力でしっぺ返し、正しさをめぐる闘争ー鳥羽伏見の戦いで決着、維新政権と二つの一致ー全会一致、明治6年政変と多数決の制度化ー朝鮮使節派遣の対立から西郷ら下野、「民選議員設立建白書」に帰着
修史⁻佐藤大伍悟
修史とは何かー歴史書の編纂、修史事業の開始ー岩倉使節団が携行する「復古攬要」の編纂と「復古記」編纂、歴史課独立ー「府県史」「皇国地誌」の編纂、修史局・修史館ー修史局を経て修史館に改組、編輯課が「大日本編年史」編纂、修史の実用性と緊急性の意義薄れる、修史館の廃止、修史の終わりー帝国大学の学問としての歴史学が形成
万国公法ー川尻文彦
万国公法とは国際法のこと―中国版の翻訳、日本ではどの「万国公法」が読まれたのかー開成所版、日本おいて「万国公法」はどのように読まれたのかー天地の公道、「万国公法」は「性法」を強調したのかー読み込んだのは日本、オランダから来た「万国公法」ー西周の留学講義筆記翻訳、万国公法を外交交渉手段として活用する中国、万国公法は「公理」ではない
征韓と脱亜ー小川原正道
征韓論争の勃発と経緯ー国交樹立使節団派遣で征韓論政変、保守派・急進派士族の征韓論ー反政府的主張、朝鮮に対する優越意識、福沢諭吉と朝鮮との出会いー開化派の金玉均来日、福沢と交流し朝鮮改革の支持を得る、「脱亜論」への道ー朝鮮開化派のクーデター失敗を受け清国・朝鮮保守派と絶縁、自由党の朝鮮改革論、民権派の東アジア観ー指導する優越者的使命感
自由民権ー真辺将之
自由民権思想研究の状況ー民権思想の総体的検討不足、近年の動向ー新しい社会秩序や社会的結合を求める動き、「民権」・租税共議論・天賦人権ー民選議員設立建白書、「自由」の思想ー政治思想、「愛国」と「結社」ー「愛国公党」、「公党論」の陥穽ー批判者を排除、立憲改進党の二大政党制論ー政党内閣制と複数政党並立
政論ー松田宏一郎
「政論」の登場ー新聞の役割、「政論」対「専制」ー新聞や出版物が世論を力づけるもの、「政論」の読者拡大ー「不偏不党」政治的課題を語りかけ、政治的闘争の立場「機関新聞」と、独立の書き手「独立の政論」、「政論」とナショナリズムー日清日露の報道などナショナリズムに寄り添う記事による論争喚起力
郡県と封建ー湯川文彦
「良い統治」を目指して、郡県制への期待ー①新政府の財政権と兵権②新政府の正しさ、私心なき統べきものー福岡孝弟「政体書」議会制導入、岡山藩は政体書の精神を藩内で共有、郡県・封建論争をこえてー細川潤次郎は混乱避けるためしばらく藩主に統治権を与え、家臣は属僚として留任、廃藩置県後の郡県制ー欧米制度の参照・松田滋賀県令は政体書の議会へ期待、郡県制と議会制ー三権分立体制移行、議会制導入
富国強兵ー鈴木淳
「富国」と「強兵」ー大久保は富国、強兵の西郷を追放、山県で強兵、幕末の富国強兵ー太宰春台「経済録」富国が本で兵を強くする・「富国安民」が主流、教導職の富国強兵ー官僚の対立から合同布教廃止、当局者による富国強兵再定義の試みと放棄ー西村茂樹「富国強兵説」再定義と山県による放棄・単に武備の拡張を求めた、富国強兵の広がりー福沢諭吉「文明論乃概略」富国強兵、
文明開化ー谷川穣
文明開化は「西洋化」、「豚」は近代の産物、仕掛け人・角田米三郎の「豚策」ー飢餓対策と肉食による富国強兵、豚100万頭計画ー豚の利点①輸出②飼料、増産方法ー種豚を希望者に預け家畜産方法を伝授、協救社設立・入社を募る、投機は「国益」に貢献する道とー入社する人々の思惑、「無用」を「有用」へー角田の文明開化論とその行く末は破綻、僧侶・佐田介石ー仏教天文学と舶来品排斥のあいだ、消費社会の構想ー「二十三題」ー中心課題は「融通」、「無用」は「有用」ー介石の「皇国固有ノ開化」論ー「融通」開化による生計保護、文明開化の差異と広がりー無用から有用の社会構想を正当化するため文明開化
人種改良
―横山尊
日本優生学の祖・福沢諭吉という問題系ー「人種改良論」、福沢諭吉の遺伝決定論ー国民のの気力・涵養に必要な方策①外教の蔓延を防ぐこと②士族の気力を維持保護、著名人の子孫の血統調査を踏まえ、いずれもその能力が継承された「人生遺伝の能力」、明治中期における「人種改良論」の本来の射程ー高橋義雄「日本人種改良論」①環境の重視②雑婚以外でも複数提言、雑婚をめぐる論争とその影響ー雑婚忌避、明治中期の人種改造論=雑婚論、日本優生学の先駆者としての福沢諭吉発見ー八木高次「優生学」で優生学の先駆者、1970年代の人口資源政策と福沢諭吉ー「優生」の語が肯定的に語られた最後の局面、その後タブー
国語ー安田敏郎
「新しい漢語」としての「国語」登場、文明開化と国語―その不備をめぐってー話し言葉と書き言葉、ローマ字表記、制度としての国語ー教科書の文法と仮名遣いを定める、学術のことば統一、大学校での授業を日本語で行うことー「同邦」という圧力ー言文一致と方言、象徴としての国語ー血肉化する「母のことば」ー国語の統一
自治ー渡辺直子
自治之介・お自治ー魅力をもった言葉、福沢諭吉の「自治」と「治権」ー自らを治める、治権が存在、三新法の「自治」ー町村、1884年の改正ー協議費の徴収、日本旧来の町村に発見された「自治」、市制・町村制の「自治」ーアルベルト・モッセの市町村制・府県郡制制定、府県制・郡制の「自治」と井上毅の批判ー府県知事は政府の代人、福沢諭吉の「立憲」と「自治」ー旧幕時代の慣習、地方制度が「自治」制であるということー民への期待
衛生ー赤司友徳
「衛生」の経験ー長与専斎の再定義、福岡藩の種痘事業と武谷涼亭ー武谷父子は種痘を始めて「牛痘告諭」を藩に献納、藩は領内に配布し普及を図り軌道に乗った、藩立医学校・賛生館の設立とその機能ー医薬品の質や販売方法の管理、紛争の調停、「衛生」に関する認識の変化ーポンぺの健康に関する講義と衛生行政の必要性の訴え、医療・衛生政策と医学書の出版、近代衛生行政の課題ー種痘事業・薬事統制、長与専斎の「衛生意見」、近世の「衛生」経験と長与専斎の引継ぎ
元気
明治期の「国家の元気」という言葉、「元気」の来歴ー漢・唐・宋と江戸期・明治は国民のの元気、「振気」論の発想ー奮い立たせる、「振気」論の展開と「元気」ー明治大変革の成功体験,「振気」の手段とその後ー超越的なものと自己との隔たり「煩悩」の時代へ
まとめ
明治維新によって出現した言葉の起源・歴史・定義を探り明治維新思想史を刷新したもの、王政復古、祭政一致、公議、万国公法、征韓と脱亜、自由民権、政論、郡県と封建、富国強兵、文明開化、人種改良、国語、自治、衛生、元気からなる