思想史という視点から、出来事の背景や関わった人々の想いを知ることで、数々の可能性を今につなげるのが思想史の醍醐味です、本書は明治から昭和にかけてシリーズ第一回配本大正を取り上げます、共同編者・山口輝臣は東京大学院博士課程修了、東京大学教授、専門は日本近代史、福家崇洋は京都大学院博士後期課程認定退学、京都大学教授、専門は近現代日本の社会運動史、思想史、
憲政擁護論⁻小山俊樹
憲政擁護と閥族打破ー「大正デモクラシー」のはじまりー憲政擁護運動、「民衆的示威運動」の系譜ー日比谷焼き討ち事件、浮田和民の「倫理的帝国」ー立憲思想の普及と倫理的帝国主義、尾崎行雄の「立憲勤王論」ー君意民心の一致させる立憲政治、憲政擁護の論理構造ー立憲主義と帝国主義の固い結びつき
天皇機関説論争ー住友陽文
何が問題になったかー上杉慎吉「国民教育帝国憲法公議」と美濃部達吉「憲法講話」、国家は団体なのかー美濃部の国家法人説、上杉の国家法人説批判、主権・統治権の主体は天皇、天皇とは何かー上杉は「君主即国家」、美濃部は統治権の主体は国家で天皇は行使する機関、国体論と憲法ー美濃部は国体論排除した政体一元論、論争以後は美濃部説優位で閉幕、上杉のもとに右翼活動家が集まる、
民本主義ー平野敬和
民本主義の背景ー吉野作造の民本主義に基づき立憲政治、民本主義の内容ー主権の行使に有効な政治理論掲示、民本主義の波紋ー山川均の民主主義切離し批判、上杉の君主主義の立場はデモクラシーを取り入れる必要なし、帷幄上奏をめぐる議論ー軍部が問題、民本主義と社会主義で吉野の立場は、議会政治に基づきプロレタリア独裁否定する社会民主主義、
教養主義ー松井健人
「歴史」としての大正教養主義ー阿部次郎「三太郎の日記」、旧制高等学校とドイツ語ー暗記一辺倒、帝大教師ケーベルと大正期教養派ー「日本語を介さずにケ-ベルトと直接会話できたこと」阿部次郎・安倍能成・和辻哲郎、人格・社会のための読書と躓きー阿部次郎「三太郎の日記」ー自己内省に向かう主人公、政治的かつオカルト的な大正教養主義へー阿部次郎の満鉄講演ー霊魂の不滅と人格主義の非政治性、なぜそもそも教養を重視してしまったか
大正マルクス主義ー黒川伊織
民本主義と日本資本主義論争のはざまでー山川均と第二次日本共産党ー体系的にマルクス理論が受容され、現実社会の変革の構想と結びつく、唯物史観による同時代認識ー明治維新の性格規定をめぐってー山川は唯物史観を日本史の叙述に適用、明治維新をブルジョワ革命、社会主義運動の再活性化ー1919年ーロシア革命の衝撃と第一次大戦で階級分化、総合雑誌「改造」、コミンテルンの日本への働きかけと第一次日本共産党の成立ー山川が「社会主義研究」ボルシェビキ特集号発行、コミンテルンの日本への働きかけで日本共産党誕生、「デモクラシー」的諸要素の拒否ー普通選挙をめぐってー共産党を議会進出に向かわせたコミンテルン、その後共産党解党、「主義者」からエリート学生へー福本和夫の登場ー福本は河上の「資本論」批判でデビュー、知識人こそ革命主導、「福本主義」のもと日本共産党再建、非合法組織として共産党の活動活発化
大正アナーキズムー梅森直之
大正時代の思想的課題ーアナーキズムの影響力と「大正青年」、日本におけるアナーキズムの導入と展開ー煙山専太郎「近世無政府主義」から幸徳秋水「大逆事件」、大正アナーキズムの輪郭ー大杉栄は荒畑寒村と「近代思想」創刊、社会主義運動再生・アナルコサンジカリズム運動のリーダー・アナーキズムの国際連帯、「自我」と「労働」からの解放ー「近代思想」の「鎖工場」、大正アナーキズムの外延ー「征服の事実」
アジア主義と国家改造論ー萩原稔
手塚治虫が描いた北一輝ー「一輝まんだら」226事件、日露戦争前後の北一輝ー開戦論と国体論、中国革命とのかかわりー「志那革命外史」革命支援訴え、排日から日本革命を決意「改造法案」①⁻執筆の背景、「改造法案」②⁻国家改造の実行手段=天皇を擁した軍事クーデター、「改造法案」③⁻国家改造の具体的内容ー国体論の理念を具体化、日本の改造とアジア主義が不可分、「改造法案」の影響ーその後の展開ー226事件で処刑、、
民族自決論ー小野容照
民族自決と訳されたセルフディタミネーション、ロシア革命と自己決定する主体、ボリシェヴィキを通して伝わり、自己決定する主体が被支配民族と認識「民族自決」と訳されウイルソンの民族自決へ、適用範囲はドイツとの植民地、パリ講和会議が三・一独立運動の起爆剤さまざまな民族自決論、黎明会・新人会と朝鮮ー吉野作蔵を中心に「黎明会」、門下の学生中心に「新人会」結成、朝鮮独立運動家との交流
小日本主義と自由主義ー望月詩史
小日本主義とは何かー東洋経済新報社が自由主義の担い手で小日本主義の中核、植松考昭の小日本主義ー大日本主義のアンチテーゼとしての小日本主義を経済から提起、三浦銕太郎の小日本主義ー帝国主義の放棄で商工業を優先、石橋湛山と自由主義ー性格は急進的、ホブハウスらの新自由主義の影響、石橋湛山の小日本主義ー国民主権・人中心の産業革命・植民地放棄と軍備撤退、小日本主義の評価ー小日本主義の理論完成と大正期における国内外の情勢が可能にし、戦後まで一貫
女性解放思ー小島翔
性を問う主体の登場ー平塚らいてう「元始女性は太陽であった」ー「青鞜」創刊、女性が自分自身の主であることを求めた、産む性であることの困難ー母としての扶養責任、性の自己決定権ををめぐってー原田皐「獄中の女より男へ」堕胎論争、人間としての平等か、女性としての権利かー母性保護論争(1918)-思想としての母性登場、権利を求めて―新婦人協会(1919~22)結成ー平塚らいてふと市川房江、個人としての自由化、社会としての保護・規制か、資本主義と女性ー時代は昭和へ「女工哀史」
新教育ー和崎光太郎
新教育の誕生ー樋口勘次郎と谷本富が「自学」、新教育の展開ー師範学校の教員と「新学校」創設した教育者、八大教育主張講演会ー新教育論の拡がりの象徴、川井訓導事件ー国が決めたことに反対する者に無差別に「アカ」のレッテル貼り運動、新教育の「終焉」ー昭和恐慌
皇道大本と「大正維新」
異形の変革思想ー大本の大正維新論、出口王仁三郎とその思想的ルーツー出口なおの教団に参加、大正期に教団は大きく発展「皇道大本」と称す、大本事件で幕、大正維新とはなにかー私有財産の奉還・租税制度の廃止「国家家族制度」、終末論と身魂の洗濯ー予言の宗教で身体と魂を洗濯して「霊主体徒」の光を輝かせなければ立替の神業に奉仕出来ない、霊魂統御の技法とそのほころびー忠良なる日本臣民を作り上げる装置と「自由行動」のリスク、大正維新から昭和維新・激しい運動展開、
水平社の思想⁻佐々木正文
部落差別と全国水平社、喜田貞吉の被差別民研究、部落差別の起源としての職業・身分、佐野学は「徳川幕府の差別的政策」の存在重視、「部落出身の小壮者」の集団による運動での部落解放思想、被差別部落民の応答ー全国水平社創立準備、水平社運動に対する喜田説・佐野説の影響ー喜田貞吉の歴史学が佐野学によって実践的な運動理論に組み替えられ水平社の思想を生み出す、
関東大震災と民衆ー北原糸子
はじめにー「民衆」は歴史用語?関東大震災発生と被災者の動向ーバラック収容者、社会政策を促す震災対応策ーバラック建設、東京市社会局の創設、東京市社会局の震災救護事務ー集団バラックの管理、集団バラックから追われた人々、住宅困難向けの社会局事業ー公営住宅への入居、帝都復興事業は成功したのかー家賃滞納者に家賃値下げ、余裕あるものは郊外に文化住宅を求める、復興から取り残された民衆はいた、
政党政治論ー奈良岡聡智
大正時代における政党政治論ー二大政党対立の流れ、大正政変後の民本主義論ー吉野作造の民本主義、山川と上杉から批判、第一次世界大戦後の普通選挙論ー原内閣成立で吉野は「普通選挙論」、政党政治論の諸相ー「普選から婦選」へ、政党政治史研究と人物論ー吉野は「明治文化研究会」組織、研究成果を「明治文化全集」として刊行、政党政治論の遺産ー前田蓮山「政党政治の科学的検討」、蠟山政道「議会・政党・選挙」
まとめ
大正は国家主導の文明化と国体の設定が民衆の側から再設定する動きが広がった時代、憲政擁護論、天皇機関説、民本主義、大正マルクス主義、大正アナーキズム、アジア主義と国家改造論、民族自決論、小日本主義と自由主義、女性解放思想、新教育、皇道大本と大正維新水平社の思想、関東大震災と民衆、政党政治論で構成