ラクダはおもしろい生き物で、人間はそのパワーを大いに利用、本書はラクダの生物としての可能性と現代社会における「人とラクダの関係」をとことん探求したもの、編者は今井薫、京都大学大学院博士課程単位取得、名古屋学院大学教授、
ラクダ科動物の進化と人間による利用ー今村薫
①ラクダ科動物の起源と進化ー北アメリカ起源分化、②狩猟対象から家畜へ③家畜化、ヒトコブラクダとフタコブラクダ、④ラクダ飼養のテクノロジーー鞍の考案、⑤ラクダ隊商による交易ー北アラビア型鞍の発明⑥近・現代のラクダ利用、肉利用、乳利用、被毛利用、糞利用、運搬、騎乗、軍用、娯楽としてラクダレースと相撲、
東アフリカのラクダ牧畜民ー曽我享
①ラクダがやって来た道、南北ルートからアフリカへ、②東アフリカの牧畜民、ガブラの人々、③ラクダのミルク、血、肉、皮、荷物を運ぶ、④ラクダを飼う、放牧キャンプ、難儀なラクダの飼育、出産と交尾、水汲みも重労働、⑤ラクダの影に生きる、呪物としてのラクダ、人生を彩るラクダ、ラクダを貸し借りする、⑥エチオピア・ガブラ社会の変容、エチオピアのガブラが経験した変容・ダバレ制度の衰退、売られるラクダ、⑦東アフリカ・牧畜の未来、旱魃と紛争、
ラクダ牧畜の現在・内モンゴル自治区エゼネー旗の事例ー児玉香菜子
①内モンゴル西部ゴビ・オアシス地域ーエゼネー旗の観光収入、②ラクダの頭数と利用の変化、ラクダ毛と生体売却、③ラクダ頭数増加とその背景、家畜数制限政策の対象外、環境政策補助金の影響、④新しいラクダ利用、観光客向けラクダ騎乗体験による収入、ラクダミルクと乳製品の製品化、⑤ラクダ利用の再活性化を支えるモンゴル国からの出稼ぎ牧畜民とラクダ搾乳場、モンゴル国からの出稼ぎ牧畜民が支えるラクダ飼養、ラクダ搾乳場・ラクダミルクの商品化、⑥ラクダの柵内放牧、土地の使用権の分配、
ラクダの識別と紛失ラクダの捜索ーソロンガ
①ラクダの所有識別、焼印・焼印の図柄と名称、耳印・耳印の形と名称、はな木、ペンキ、ドゥージン、②放牧におけるラクダの確認、行動パターン、毛色、顔つき、③逃走場所の推理、牧地の状態、季節、天候、足跡、糞と尿の状況、④紛失ラクダの情報、携帯電話とSNS⑤紛失ラクダ「指名手配書」の事例、
ラクダの分類と個別志個別ーソロンガ
①成長段階、年齢と性別による名称、②成長にあわせたラクダ利用、③固体の形態的特徴による名称、毛色による名称、コブによる名称、体格による名称、足跡による名称、
遺伝子から探るヒトコブラクダとフタコブラクダの雑種ー川本芳
①ラクダ科動物の家畜化、ホモサピエンス以前・ヒトコブとフタコブは440万年前に共通祖先から分かれた、ラクダ家畜化の背景、生物学的背景・新旧大陸、人類史的背景・アンデスとユーラシア、他の動物の家畜化との違い・自然雑種と家畜化による変化、②旧大陸のラクダたち、分布・野生はゴビとタクラマカン砂漠の僻地・家畜はイランから中国、家畜化センターはカスピ海の東側、③交雑するヒトコブラクダとフタコブラクダ、家畜ラクダの分布、交雑ラクダ、交雑ラクダの検証、④遺伝子から交雑を調べる、形と遺伝子、遺伝子とゲノムの研究、研究方法・交雑調査の遺伝標識、遺伝子分析とフィールド調査、⑤カザフスタンのラクダ調査、自然と社会の背景、調査地のラクダ、交雑度の違い、⑥キルギスのラクダ調査、キルギスの現状、調査地のラクダと交雑状況、⑦交雑ラクダの利用、遺伝子調査から見えてくること、課題と展望・社会基盤の整備、
ラクダの調教ーソロンガ、
①調査地の説明、内モンゴル自治区アラシャー盟、②ラクダの馴致、当歳仔・2歳ラクダ、③ラクダの騎乗用調教、はな木を刺してからの軽い調教、騎乗用ラクダの本格的調教、④調教後のラクダ管理、
牧畜民の暮らしを支えるラクダ毛・モンゴル国カザフ人の事例からー廣田千恵子
①カザフ人とラクダ・「毛」の利用、②柔らかく暖かな毛「カブルガ・ジュン」・日本ではキャメル、③硬くて丈夫な毛「チュダ」④チュダ・ジップで縫われる様々な道具・3つの場面ー住居用フェルトの縫い合わせるとき・フェルトの敷物「スルマック」を刺し縫う際・コルという毛の帯紐を作る時⑤ラクダの毛と共にある暮らし、
フタコブラクダでの移動と運搬ーモンゴルのカザフ人の例からー今村薫
①調査地の概要と調査方法、モンゴル国バヤン・ウルギー県、ボルガン郡における移牧における聞き取りと参与観察でのN氏のラクダ運搬、②運搬の実態、営地の場所・春営地・夏営地・秋営地・冬営地で移動は徒歩・乗馬・バイク、移動と移動前後の時間配分、春営地から夏営地まで2時間半移動・3時間で家を完成、ラクダへの荷積みの方法、それぞれのラクダの積載量、③ラクダによる運搬、180kgから270kg
トルコのラクダ相撲・駄獣からレスラーへー今村薫・田村うらら
①トルコの雑種について・異種交配でカザフスタンとトルコ、②トルコの牧畜と調査地について・ラクダの飼育頭数1708頭・調査地はトルコ共和国アイドゥン県・ラクダ相撲実態のため牧場主にラクダ相撲の歴史やラクダの飼い方につき聞き取り調査、③インタビューの記録、C氏へのインタビューでラクダ飼育専門・強いレスラー、K氏の牧場見学・飼育しながら交配・繁殖④ラクダ相撲の歴史と相撲大会の概要、ルーツは古代遊牧時代・公式記録はオスマン帝国時代のアイドゥン県・競技はアマチュアサッカースタジアム・ラクダ相撲はあらゆる年齢の人びとを魅了、⑤ラクダ相撲を行う背景、オスマン帝国では「軍用重輸送用乗物」、強いラクダを求める中で娯楽としてラクダ相撲発達、⑥トルコにおけるラクダ・雑種交配の技、変化に富む国土の山岳地帯と沿岸地域に適合するよう交配技術、⑦トルコにおけるラクダ相撲の今後、古くは遊牧民の娯楽、中世では宗教的意味合いから「トルコ民族」「遊牧民文化の伝統」の再評価で開催規模拡大・多くの人を巻き込む、
ラクダの食習性とキャメルライン」の形成・ラクダの環境適応と環境破壊ー星野仏方・多仁健人
①ラクダの食習性、いかにして砂漠と海辺から餌を見つけるか②キャメルライン、ラクダの過放牧で3m以下の樹木が食われ枯れる現象、③マングローブ林とヒトコブラクダの関係の季節性、ラクダの放牧前ヒルギダマシ採食調査、冬季は毎日沖合のマングローブ林・夏季は11日間で7日、④ヒトコブラクダのヒルギマシ採食量、ダメージは適切な採食を受けているマングローブが最も高く、最も低かったのはキャメルが形成されたマングローブ
まとめ
①ラクダ科動物の進化と人間による利用、②東アフリカのラクダ牧畜民③ラクダ牧畜民の現在④ラクダの識別と紛失ラクダの捜索⑤ラクダの分類と個体識別⑥遺伝子から探るヒトコブとフタコブ⑦ラクダの調教⑧牧畜民の暮らしを支えるラクダ毛⑨フタコブラクダの移動と運搬⑩トルコのラクダ相撲⑪ラクダの食習性とキャメルラインの形成、生物としてのラクダの探求、そのパワーを大いに利用した人間、北アメリカが起源で分化しアンデスとユーラシアに広がったことが解る、