ルネサンスは情報、1492年の衝撃・新大陸発見と半島のイスラム勢力駆逐、1543年の地動説や人体解剖と植物誌、広がる地平に関わった活版印刷、情報編集の視点から論じていきたい、著者は東京大学院博士課程修了、大阪大学院教授、専門は西洋美術
ルネサンスの地図の世界
花の都フィレンツェが臭い、クジラ愛ずる君主コジモ・自然の驚異に魅せられて標本展示、戦乱のイタリアは新大陸に触手する余裕なし、イタリヤはルネサンス文化のフィルターを介し消化、コジモ愛読メディチ家蔵書のプトレマイオス「地理学」、宮殿の地図の間の構想、コスモスの支配する部屋、他にもあった地図の間、制作に長大な時間、描かれた地図の特徴は「古典・既知フレームの維持」、最初に描かれた二枚はカルフォルニアとメキシコ、ダンティが描いた新世界は中南米、食人イメージのアマゾン、新世界発見の業績をアメリゴ・ヴェスプッチに読み替える、アメリカ発見をイタリアの偉業として言祝ぐ、イタリアの立場は宗主国スペインに配慮、伝統知と新知識の融合、すり合わせ
百学連環の華麗なる円舞
ピーコは、ヴァチカンの大討論で、人間のこの偉大なる奇跡の演説・人間の変幻自在性こそ最高の特権・拡大する世界の中心で人間賛歌・神に代わって世界を讃嘆すること・八つの学派の教説掲げビーコ自身の見解、知のための知の構築「百学連環」、クインティリアヌス「弁論家の教育」-古代の百学連環思想①・ウイトルーウイルス「建築十書」-古代の百学連環思想②・キケロ―「弁論家について」-古代の百学連環思想③、中世における知の集約と分類のツールが自由学芸七科・象徴的事例が「大亀鑑」、ムーサの円舞は学問知識の総体を表現、アンジェロ・ポリツイアーノの文献学は古代テキスト研究の強力な武器、学知の円環の設計図か樹形図か、フランソワ・ラブレーのガルガンチュワとパンタグリエルで「深遠なる学識の持ち主」期待、神の霊感がもたらした印刷術発明で図書館建設、ルネサンスと古代・中世を分けるものは印刷術の発明、ベイコンによる転換・個々の積み重ねの末に到達、
印刷術の発明と本の洪水
積ん読の誕生、キケロ―を𠮟りつけるペトラルカ「軽薄だ」、ブック・ハンター・ポッジョ・ブラチョリーニの古典作品の発見、印刷術を有機的に組み合わせたグーテンベルク、印刷本の特徴は一見豪華写本、印刷術の拡散、本が増えるわけー発行部数と市場原理、キケロ―を筆頭に古代のラテン語作家が大人気、拡大する蔵書の規模で印刷本が流通の主流・本があふれる、印刷版書誌の誕生、コンラート‣ケスナーの万有書誌の夢、良書選別書誌、プロテスタント系禁書目録、禁書目録をめぐり人物著作禁書指定、
ネオラテン文化とコモンプレイス的知の編集
不治の病「キケロ―主義」、寝食忘れキケロ―主義、ちょっと待てでペトラルカによるネオラテンの誕生とキケロ―主義生まれる、模倣と創造をめぐって作品は自らの言葉で語る、それ相応の才幹と理性の問題、病を治すには語る内容が肝心、学習ツールの整備とネオラテン的文章感覚が時代に共有される、エラスムスの古典語学習法は語句の抜粋収集・類似と反対で整理、エラスムスの「格言集」「痴愚神礼賛」、フレーズ抜粋の方法はloci communesをめぐるルネサンス期の議論の中に回収できる、議論の中心が弁証術から文学へ、ネオラテンの隆昌とコモンプレイスの活用、コモンプレイスをノートに抜粋整理、語句抜粋は後でまとめてノートに書き写し「抜粋に便利なコモンプレイス見出し付き」から鋏で切り取りノートに糊で貼る、印刷版コモンプレイス・ブックの登場、「オッフィキーナ」はネタ本としての質の高さ、ツヴァイガー「人生の劇場」人類史にまつわるあらゆる経験、劇場の構成は樹形図から見出し・本文・誰も使いこなせない樹形図、コモンプレイスと知的生産・コモンプレイス化する世界・文化資本のレポジトリーとして
記憶術とイメージの力
キケロ―になれる装置は記憶術、古代の記憶術は弁論術の分野、三つの基本原理は器づくりと弁論原稿の暗記と器に配置、器は繰り返し再利用、文字をイメージに変換・画像の強度、ルネサンスにおける復活は情報爆発、印刷本に記憶術活用、キケロ―主義カミッロ・劇場装置に記憶術原理、物理的な「器」と「画像・オブジェ」に移し替え、ヴィジュアル・インデックスの活用、言葉とイメージと物の融合、記憶劇場からより巨大な空間ミュージアムへ、初の蒐集理論書「劇場の銘」は目録と施設、コモンプレイスとミューウジアムも情報の効果的分類配列を通じて、新たな知を生み出すツール、事例として・フランチェスコ一世のストゥディオーロと呼ばれる小空間・トリノの大ギャラリー「全学知の普遍劇場」
世界の目録化ールネサンス博物学の世界
サンマルコ工房で魚の図譜をみて・一目ぼれするアルドロヴァンディは・破天荒な青年・二度の家出と旅・ローマの拘留でパオロ・ジヨーヴィオとギョーム・ロンドレザとの運命の出会い知的基盤が整えられる・ルカ‣ギーニに植物標本蒐集指導受け・ボローニャ大学博物学教授、博物学という学問成立は、古典文献の校訂作業進展・十五世紀後半ールネサンス博物学の発展①、自然との照合で植物学が自立・十六世紀前半ールネサンス博物学の発展②、教育研究体制の確立・十六世紀後半ールネサンス博物学の発展③、増大する品種・植物園建設と乾燥植物標本入手、博物学で印刷メディア活用、十六世紀の動物誌を読む・何でもあり、重要な情報源・エンブレム文学・解釈フレームとして・エンブレム的世界観と新大陸の博物誌のすり合わせ、アメリカに行けない・博物標本で代用、博物図鑑の誕生、図譜のメリットは複製可能・デメリットは主観、アルドロヴァンディのイメージが重要な研究ツール論、ヤコポ・リゴツッツイは自然の動植物を描いて讃嘆の的、アルドロヴァンディの図譜工房で図譜作成、アルドロヴァンディの自邸のコレクションは世界八番目の驚異、検索の利便性実践版「パンデキオン・エピステモニコン」、①読書の際にトピックス抜粋②たまった紙片はアルファベット順に③袋にたまった紙片をパンデキオンの台紙に張る「カット&ペースト手法」、後世のために・公益に資するため
まとめ
本書は、ルネサンスを情報が爆発的にあふれ出し、従来の知的枠組みが揺すぶられた視点から執筆、新鮮なルネサンス像をつかみ、今直面している情報爆発の「脅威」の対処ヒントにしていただきたい。地図・百学連環の華麗なる円舞・印刷術の発明と本の洪水・ネオラテン文化とコモンプレイス的知の編集・記憶術とイメージの力・世界の目録化まで描写