50年近くにわたり「人間とは何か」の問いのもと、自然と文化の人類学のフィールドワークを行ってきました、そこで今までのフィールドワークの経験をもう一度ゆっくり辿りながら新たな視点からこころを探求する旅が始まりました、著者は東京大学院博士課程取得、北海道大学名誉教授、専門は生態人類学
カナダ・インディアンの神話
1,昔、動物は人間の言葉を話したー神話の冒頭にあり、夢の中で獲物の霊と交流、人間と動物の関係は初源的同一性の論理
2,トナカイは人が飢えている時、自分からやってくるー神話でおばあさんがトナカイの糞から少年発見・育てる、ある時少年はトナカイの肢を食べたいが一緒に生活している人々は与えない、「彼らを飢えさせる」と言って追い払い、少年はトナカイを殺し、ばあさんに料理さす、トナカイが北へ帰るとき、少年もトナカイとなり帰った、
3,生態とわかちあいのこころーインディアンは夏は漁労・冬はトナカイ、情報交換、分配と協力、わかちあいのこころ
レ・トロワ=フレール洞窟の自然神
1,動物人間の壁画ー動物と人の混成像の発見、初源的同一性の概念
2,神話の誕生と人間性の起源ーシャマニズムと初源的同一性
3,こころと進化ー言語能力の向上と世界観の確立、トナカイ狩猟活動系は効率的生存のための主体的戦略的モデル、気候変動に合わせた狩猟法、心の生存戦略
アイヌの熊祭り
1,カムイと呼ばれる自然ーアイヌの世界観、
2,熊祭りはアイヌとカムイの饗宴の場ー熊祭りは熊に対する敬畏、
3,序列化社会における平等原理ー熊祭りでの参加者の社会的序列と平等原理
4,共生とおもいやりのこころー「神の肉」を共食
コリヤークとトナカイ神
1,すばらしい時代ー「トナカイ遊び」でトナカイ遊牧コリアークと海岸コリアークの違いの起源、飼育トナカイの起源で重要な夢と結びついている点、夏は海岸ツンドラ地帯で放牧、その後冬の放牧地へ移動、遊牧と結びついた一年のサイクル、カレンダーには自然やトナカイの生態の変化に基づいた名称がつけられる、トナカイとともに生活の季節とトナカイと別れて生活する季節のサイクル、
2、トナカイ遊牧と新たな神の誕生ー遊牧単位は特定のトナカイの群れを共同管理、守護霊への供儀、トナカイ遊牧は狩猟を基盤、①尿や塩を与え自然な接近と柵へ追い込み猟②群れ管理するため橇用トナカイの訓練③群れの管理体系の確立、トナカイ遊牧は遊びに始まり、管理に至った、もうもとに戻らない
3,死の儀礼と魂の循環ー人間の溺死で殺される犬、死体を切り裂き火葬、コリヤークの相撲が始まる、トナカイは死者とともに上界、毬の奪い合い、生まれた子供を死者の名前で呼ぶ、
4,象徴的なトナカイ橇レースと再配分のこころー新年のトナカイ供儀の祭礼の間、遊牧民は競技を準備、トナカイ橇レース・相撲・徒歩競争、トナカイ橇レースの隠された意味は生産物の分配機能、コリヤークの「もてなし」富を持つ者は賞品として提供、循環と平等原理
モンゴルのシャマニズム
1,草原いっぱいの羊ー羊の家畜化と馬の調教で、遊牧民は馬の機動力を背景に強力な戦闘集団に変化する、
2,シャマンの歌と治療ー歌と舞踊による霊の招請、霊による治療、病気を治す歌‣恋の病を治す歌・鬼を追い払う歌、
3,シャマニズムの宇宙論ー特徴は天‣地・地下という垂直的宇宙で、天地の中間に人間、シャマンが山や木を鳥という象徴を用いて、宇宙の神々と交流、アンダイは若い女性の精神疾患を治療する文化的儀礼でシャマニズムの復活、天は父・地は母・シャマニズムの演出における同一化は分離していたものを混沌たる状態に回帰、
4,シャマンと人々の願いーボになること・師から弟子への継承・人々の願いに答えるこころ
ラダック王国と仏教
1,ラダック王国の統合機構ー王国の生態的地位は南を大ヒマラヤ山脈・北をカラコルム山脈に囲まれ・インド・チベット・東トルキスタンと交流・ラダックへの仏教伝播は2~8世紀・10世紀~11世紀と15世紀、王国の歴史は成立期(900~1400)発展期(1400~1600)衰退期(1600から1834)・交易経済、仏教維持のため対イスラム政策
2,ラダック仏教僧院の祭礼ーラマユル僧院における祭礼はカプギャット祭礼(悪魔祓い)とカンギュル祭礼(デチョク儀軌)、儀軌は①自身・視覚化②瓶・視覚化③前面・視覚化④灌頂⑤集会・供物⑥去る・捧げる、最終日はルートㇽ儀軌・僧と諸尊との同化とこの世に生きるすべてのもののために祈る
3,祭礼の生態学的意義と慈悲の実践ー互いに補完しあう僧院と村人、集団の維持に欠かせない祭礼、自己と宇宙との同一性
現代のなかのチベット仏教とシャマニズム
1,僧院の祭礼とシャマニズムーマト―僧院のナグラン祭礼の目的は降雨と防災、悪霊を追い払うため護法尊と守護尊に関する儀軌が執行され、この一環として仮面舞踊が行われる、ラーを憑依するシャマンはラバと呼ばれる二僧、一日目は、仮面舞踊とラバの踊りと気絶、二日目のラバは人々に向かっての託宣と大麦粒を蒔く
2,ラーの登場拒否と政治ー楽師たちは軍隊入りで演奏拒否、僧は僧院の内外をラーになって走り回りたくない、祭礼の変化は①楽士の反抗で村人との対立②ダライラマ法王14世の裁定と僧院の譲歩で職業選択の自由③サキャ派の政治戦略で、僧の僧院外を巡行中止するラーの登場条件
3,カーラチャクラ灌頂と平和構築のこころーダライラマ法王はインド亡命以来、ラダックと深い結びつき、現在ラダックは独自の伝統文化と帰属性の維持により紛争解決戦略を展開ダライラマは、法話で「空」と「無我」利他によってしあわせになる、モスレムとの衝突回避、カーラチャクラ灌頂儀礼は大楽と空が一つであることを感得することで、平和構築への意志
こころの自然
1,こころの起源と人類の進化ーはじまりは母の愛と恩、狩猟の論理は初源的同一性の思考に基づく互恵性、利他心の起源は初源的同一性の感覚、人類の進化は適応の産物
2,こころの自然に生きるー死の瞬間から日常を見る、利己・利他を超えたこころの自然、
まとめ
こころとは何か、本書は「自然と文化の人類学」という新たなパラダイムに基づいて、フィールドから本質を解明するものです、構成はーカナダインディアンの神話、レ・トロワ=フレール洞窟の自然神、アイヌの熊祭り、コリヤークとトナカイの神、モンゴルのシャマニズム、ラダック王国と仏教、現代化のなかのチベット仏教とシャマニズム、心の自然
かんちょうチック