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壁と卵

梶谷懐 中国経済講義

皆さん中国経済はどうなってると思います、本書は神戸大学梶谷教授が中国経済講義を執筆したものです。

中国の経済統計は信頼できるか

GDP 統計に不信感、問題の原点は国際標準SNA体系移行から、並行して各国は公式統計の研究。トーマス・ロースキーの整合性チェックから問題提起、鉱工業統計の改定をめぐる誤差から慎重さ要求される。代替的な推計方法は幾つかの指標を加重平均と仮定法があり様々な問題を抱える。サービス部門の付加価値額に最大誤差、GDP成長率に誤差が生じる大きな要因はデフレータの推計、地方GDPの水増し報告があり、不確実性が大きい経済といえる

金融リスクを乗り越えられるか

中国経済に変調のきっかけは、2015年の株式市場急落と人民元切り下げ、取引停止と資本流失、中国経済がデット・デフレーションの状態に陥った、民間部門の過剰債務は貸し渋りが原因。デットデフレーションに対する望ましい政策は資源配分の効率化とリフレ政策、外国為替に関する投機的な取引が大規模になったが、硬直的な為替制度改革が遅れ、金融政策の自由度が大きく失われた。理由は、リーマンショックがきっかけで人民元の国際化、IMFへ資金拠出とSDR建て、「ドルの足枷」。対処法として主要通貨によって形成される通貨バスケットに人民元をペックすることで緩やかに元の変動幅を広げる、功を奏し景気回復。トランプショックで短期金融市場の引き締めは債券市場のリスクを高め、中国人民銀行、証券、保険の各規制当局を監督する権限を持つ「金融安定発展委員会」設立、さらに「銀行保険監督管理委員会」発足、並行して金融・資本市場の対外開放、

不動産バブルを止められるか

経済が、資本の過剰に蓄積の状態にあることは、投資の勢いが止まらず、さらに資本蓄積が進むこと。「資本過剰経済」は江沢民、胡錦涛で本格化。ーマンショック後第二段階の主役は地方政府の投資行動、土地使用権取引の構造は、使用権の供給が地方政府独占、その上に開発業者が不動産建設、土地と不動産をセットで売り渡す、工場は安く、住宅は高くする。第二段階は「融資プラットフォーム」を設立し開発資金調達、融資プラットフォームを通じた民間債務の拡大リスク対応で地方債発行とPPP方式(公共部門と民間部門の連携)、

経済格差のゆくえ

「ジミ係数」の推移は2008年ピーク、その後やや縮小、「灰色収入」の存在、ピケティの資本係数は1978年の350%から2015年700%に増加、上位10%の所得比率は27%から41%に上昇。地域間格差は縮小傾向、計画経済期は均衡発展、改革開放で沿岸地区経済発展採用、財政を通じた地位間の再配分は地方財政請負制度(一部をを中央に上納、残りを使う)で中央財政の弱体化。朱鎔基の分納制で明確化、中央財政上昇で「地域協調発展」へシフト、西部大開発、

農民工はどこへ行くのか

国有企業の計画経済期は単位社会を形成、「放権譲利改革」生産性改善・内部者利益優先から「所有権改革」リストラ。労働市場の歪み「戸籍制度」は緩和され農民工増加、ハウスホ-ルドモデルに即すと土地は公有、出稼ぎ時親戚に無料提供、課題実現を目指すのが城鎮化政策(中小都市創設と農民の市民化)、農民工の80%が都市戸籍に変わりたくない、大都市は依然として厳しく制限。「包工制」と呼ばれる手配師が建設会社から委託を受け労働者を募集労務管理を行っている、問題なのは建築現場での労災、「責任逃れの温床」。農民工の権利保護は、労働NGOによって担われてきた、労使の紛争の多くは社会保障の未払い、シェアリングエコノミーの問題

国有企業改革のゆくえ

マクロで見た労働分配率の減少は投資主導の経済成長と表裏一体、国有企業は賃金水準において相対優位、「傾向スコアマッチングの方法では、国有企業の労働分配率は非国有企業を大きく上回っている。一方、民間企業の経営者には個性的な人物が多い、丸川知雄は大衆資本主義「垂直分裂」を繰り返すことによって生産性を引き上げる、渡辺真理子も零細企業が激しい競争を繰り広げる形態が有利に働いていると強調、政策の歪みや改革の遅れで足を引っ張りがちな国有企業を退場させることが必要。目玉と考えられたのが、国有企業の再編と混合所有制、この方針に従い宝鋼集団と武漢鋼鉄集団の統合で世界2位の鉄鋼メーカー誕生、

共産党体制での成長は持続可能か

「国家知的財産権戦略望綱要」発表、李克強「大衆創業万衆創新」提唱、28か所のハイテクモデル地区指定、産業投資基金む数多く創設、出願数は米国を抜いて一位。深圳のエコシステムは①プレモダン層・山寨、②モダン層③ポストモダン層が混然一体となっている。プレモダン層ー台湾の半導体企業「メディアテック」が携帯用の汎用ICチップ開発し携帯が組み立てられる・営業許可なく生産販売する零細業者急増。モダン層ーファーウェイは通信事業者向けのコンピュータや通信機器が売上の60%を占めるB2Bビジネスの巨人、ポストモダン層ー代表的な企業SEEEDのキーワードは「オープンソース・ハードウエア」ソフトウエアのコードを公開し自由なコピーを認め多くの技術者が開発に参加することでイノベーション促進、

パクリとイノベーションが共存、どういう業者と付き合えばよいかで「デザインハウス」がある、取引を成立させる解決法は「報復」「評判」「分断」がある、デザインハウスのビジネスモデルが深圳で広がるきっかけは山寨携帯電話の爆発的広がり。イノベーションの特徴として、法の支配が貫徹せず不確実性の大きな市場で、アリババ集団やテンセントなどの大手IT企業が「情報の仲介者」としてプラットフォームを提供、安定した取引を成立させる仕組みが働いてきたこと。先駆的な企業が政府の規制を無視した行動をとることで、なし崩し的に制度を変化させ、統治を巡る治者と被治者との「馴れ合い」が常態化しているがゆえに、法的秩序もかなり緩やかなものになる、

まとめ

中国の経済統計はSNSへ移行したが、サービス部門の付加価値で最大誤差があり、慎重に取扱うべき。変調を招いたのが過剰債務とデットデフレーション、人民元の国際化で銀行・証券・保険の連携。資本の過剰蓄積は土地使用権取引を行う地方財政に問題。ジミ係数・灰色収入・資本係数から格差拡大。分税制により再配分強化と内陸投資で地域格差は縮小、都市創設と農民工の市民化、包工制が今も存在。国有企業改革は再編と混合企業化、激しい競争の民間企業が生産性を高める、「国家知的財産権戦略綱要」発表、「大衆創業万衆創新」提唱。深圳では知的財産権無視・王道・オープンソースを通じたイノベーションが相互に補完しあうシステム、政府と民間とは「馴れ合い」。日中間では相互補完関係、競合関係になると予測される、一帯一路は内的動機に基づくもので、周辺諸国の経済成長がカギ、深圳は新しい日中関係を担う層を体現しており、普遍的価値との対峙が問われる、