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文学

川端康成 十重裕一 書評

本書は川端康成の文学者としての軌跡をメディアとのかかわりのもとにたどることが目的、著者は早稲田大学文学学術院教授、国際文学館館長、

原体験としての喪失ー出生から上京まで

①天涯孤独の感覚と他者とのつながりー父母の手紙と16歳の日記、手紙と日記ー伝えることと記録すること、19世紀に生まれてー少年の頃から自分の家も家庭もない・父母の死別、孤児の感情ー祖父の介護を記録した16歳の日記、②川端康成の日本語観ー書き言葉から話し言葉へ、耳で聞いてわかる日本語ー音読が少年を甘い哀愁に誘い込んでくれた、大正時代の国語改革をめぐってー耳で聞いただけで意味の分かる文章の礼賛、標準語の第一世帯ー方言と標準語のゆらぎ、志賀直哉を文章の模範としてー最高峰に達してゐる尊いもの、聴覚的な言葉へのこだわりー掌の小説から代表作まで、臨時国語調査会と川端康成、③文学者として上京するー最初の文学の師との出会い、帝都改造前夜の上京ー大阪ことばを聞きに浅草の喜劇へ、南部修太朗との出会いと交流ー私の最初の原稿料、最初の人ーただ一人の文学者の魅力、日記の中の作家たちー芥川龍之介への傾倒、はじまりとしての招魂祭一景、

モダン都市とメディアを舞台にー伊豆の踊子と浅草紅団

④新感覚派の旗手として―横光利一との出会いと関東大震災、無二の師友ー横光利一と三島由紀夫、恩人の最初の印象ー激しく強い・純潔な凄気、文芸春秋の創刊ー新しい時代の精神に贈る花束、関東大震災との遭遇・地震と大火災との暴力、文芸春秋同人たちの去就、⑤1926年、前衛映画「狂った一頁」、新感覚派映画連盟の結成ー映画的な映画を志向して、「狂った一頁」の特色ー無字幕・無声の前衛映画、撮影所通いと映画シナリオの創作ー共同制作の体験、シナリオの表現の特色ー映像の連続性の翻訳、映画タイトルの変更ー「狂える一頁」から「狂った一頁」へ、「狂った一頁」をめぐる新聞報道ー別の映画タイトルの可能性、共同制作に携わった歓び、⑥名作はつくられるー伊豆の踊子のゆくえ、単行本「伊豆の踊子」の出版ー変化に富む短編小説集、「伊豆の踊子」の評価ー40年間以上愛読者は絶えない、道がつづら折りになってー風景に織り込まれる息遣い胸の高鳴り、「孤児根性」からの解放ー「いい人はいいね」、「伊豆の踊子」の作者としてー反撥・嫌悪・羞恥、学生時代の恋愛と別れ、⑦帝都復興を映し出す「浅草紅団」ー新聞・挿絵・映画、新聞連載小説への再挑戦ー浅草を主人公として、新聞記事を引用する小説方法ー三面記事の摂取、東京朝日新聞の記事とラジオ放送ー不景気のどん底の年の大晦日、音の風景ー東京の心臓の躍動感、挿絵と新聞小説の相互作用ー太田三郎の挿絵、挿絵が伝える物語内容ー関東大震災・隅田公園・カジノ・フォーリー、新聞連載小説と文芸映画ー映画「浅草紅団」をめぐって、映画「浅草紅団」の同時代の評価ー復讐劇とメロドラマ、小説中断時に上映される映画ー変えられた結末、現実と虚構のあいだにー虚実皮膜を志向して、言葉の劇場⁻ニューメディアとしての電光ニュース、復興する東京のパノラマ、

戦中・戦後の陰翳ー書き続けられる「雪国」

⑧文芸復興期前後の活躍ー「水晶幻想」「抒情歌」「禽獣」、1930年代前半の小説の実験ー芸術家の末期の目、レンズと意識の流れー「水晶幻想」の実験、「抒情歌」ー輪廻転生の抒情詩、「禽獣」ーいやらしいものを書いてやれ、競い合う創作、⑨言論統制と「雪、芥川龍之介国」ー内務省の検閲と芸術との葛藤、短編連作ー思い出したように書き継ぎ、切れ切れに雑誌に出した、内務省の検閲との葛藤ー風俗ヲ壊乱する表現、闇と光の造形性ー「雪国」に見る陰翳礼賛、夕景色の鏡ー映画の二重写しのように、夜汽車の表現の記憶ー想起される近代日本の文学の記憶、繭倉の火事ー非現実的な世界の幻影、都市と地方の格差と新聞・ラジオー開通した鉄道と旅の物語、⑩新人発見と育成の名人ー太宰治と北條民雄、芥川龍之介賞の選考委員となるー文学の名伯楽として、太宰治からの批判ー生活に厭な雲ありて、北條民雄との親交ー太宰治との対照性、「いのちの初夜」への称賛ー生命の最極の真実、異なる才能を見出す批評眼ー北條民雄と太宰治に対する評価、⑪女性作家支援と女性雑誌での活動ー岡本かの子・中里恒子・豊田正子、戦時下における活動ー女性雑誌・少女雑誌の選者として、代作・出版社・文壇ー伊藤整と中里恒子、女性作家活動の支援ー岡本かの子と豊田正子、戦時下の創作ー「名人」との格闘、燈火管制下の源氏物語ー千年前の文学と自分との調和、創作と後進支援の舞台裏

占領と戦後のメディアの中で

⑫知友たちの死と鎌倉文庫ー喪失からの再出発、相次ぐ師友の死ー弔辞の名人、二人の恩人への弔辞ー横光利一と菊池寛、鎌倉文庫の出版活動ー新人の作品を紹介するのは私の楽しみ、三島由紀夫との出会いー回想される「少年」時代、美術品の収集と死者との対話、⑬GHQ/SCAP検閲下における創作と出版ープランゲ文庫の資料からの照明、検閲下の創作活動ー禁じられた戦争と占領の表現、GHQ/SCAPの手厳しい洗礼ー「人間」創刊号における検閲、占領と戦争を描く「過去」「生命の樹」に対する事前検閲、プランゲ文庫の中の川端康成関連資料ー「川端康成全集」と「美しい旅」、敗戦後の文学全集と文庫本、⑭占領終了前後に紡がれる物語ー「舞姫」「千羽鶴」「山の音」の連載と出版、事後検閲期に発表された「舞姫」ー朝日新聞に見る言論統制の力学、「舞姫」における自己検閲ー内務省とGHQ/SCAPとの二重拘束、内面化される検閲ー表現の自由と言論統制、鎌倉を舞台とする二つの小説ー長く書き継ぐつもりはなかった、千羽鶴と山の音、教室の中のベストセラー、⑮高度経済成長期のノスタルジー文芸映画とテレビ・ドラマ」、敗戦後の日本文学の映画化ー国際映画祭での相次ぐ受賞、川端康成の小説の映画化ー文芸映画の時代、「伊豆の踊子」6回お映画化ー通底する懐かしい故郷、高度経済成長の中の懐かしい風景ー失われた時を求めて、見出された失われた故郷ーつくられた変わらぬ日本、絶えざる前衛ー「眠れる美女」「片腕」、「伊豆の踊子」とツーリズム、

世界のカワバター「古都」から「美しい日本」へ

⑯文学振興への献身ーペンクラブ・文学全集・文学館、敗戦後の文学の振興と国際化ー取り残されたという思い、ペンクラブにおける活動ー日本文学の国際化へに貢献、広島と長崎での被爆者との対話ー平和を希ふ心をかためた、日本文学の振興ー文学賞の選考委員と文学全集の監修・編集をつとめて、日本文学の記憶を後代に伝えるー日本近代文学館・国文学研究資料館の設立、川端康成と松本清張、⑰翻訳と「日本」の発信ー「古都」から「たまゆら」へ、国際的な活動と翻訳、新幹線開通前夜の京都を舞台とする物語ー「古都」と「美しさと哀しみと」、高度経済成長による市街の変容ー若いころの京都は日に失われゆく、「テレビ小説」時代の到来ー「たまゆら」のテレビ・ドラマ化、「弓浦市」と「富士の初雪」、⑱ノーベル文学賞への軌跡ー日本語の文学を後代に伝える、4人の候補者たちー谷崎潤一郎・西脇順三郎・川端康成・三島由紀夫、ノーベル文学賞受賞講演ー「美しい日本の私」の陰翳、作家の記憶を記録し後代に伝えるー文学賞・記念会・文学館・学会、

まとめ

①原体験としての喪失②モダン都市とメディアを舞台に、伊豆の踊子と浅草紅団③戦中・戦後の陰翳・雪国、④占領と戦後のメディアのなかで⑤世界のカワバタ、古都から美しい日本の私、川端康成の活動期間は太平洋戦争・占領・高度経済成長、メディアとのかかわりが川端文学を決定づけた、検閲と後進の育成も見もの、