乳製品は食卓を賑わしているが、牛の姿は遠い存在となっている、本書は人間と牛のかかわりを再構築したものである、著者は東北大学名誉教授、家畜生理学専攻
ウシの出現と家畜化
1ウシの祖先と進化ーウシと馬は同じ祖先・反芻類で最も繁栄、2動物の中でのウシの位置⁻反芻類、3ウシの家畜化ー最古の遺跡はトルコのチャタル・ヒユク、スイギュウの家畜化、4生理や栄養から見た特徴ー反芻胃で草類を栄養分として利用
日本の牛の始まり
1野牛の渡来と絶滅、2和牛の祖先、1)古資料に見る牛ー古事記と日本書紀、2)遺跡からの出土品と牛ー埴輪と群馬県の黒井嶺遺跡、3わが国への家畜牛渡来のルートー朝鮮半島ルート、
牛の用途
1まず犠牲獣として用いられた、1)農耕儀礼に捧げられる牛ー「古語拾遺」、2)雨乞いのための殺牛儀礼ー日本書紀、3)と殺と肉を食べることの最初の禁止令ー日本書紀、2牛の役利用、1)牛に仕事をさせるー四天王寺建立に用材運搬、曳き綱と鼻環、2)牛に引かせるー律令制による牛牧と軍用牛・中国から輸入された牛車と刑罰法、3)牛で運ぶー荷駄輸送、牛の年齢や性別で運搬規定、牛方の使う牛の品種が定着、4)牛で耕すー牛耕の伝来と改良、牛の貸し出し、牛の肥料、3乳業と牛乳、1)人間の飲乳と子牛の飲乳ー子牛は直接第四胃に入る、2)日本での牛乳の利用ー孝徳天皇に献上、酪・蘇・醍醐の加工品、乳牛渡来は徳川吉宗期、3)乳牛と牛乳の今と昔ー100年で乳牛は800倍、一泌乳期で20頭の子牛、血統登録、
4肉食と肉牛、1)肉食と肉食への批判、①菜食主義と肉食主義ー人間は本質的に肉食②動物愛護の視点からー家畜生理学者としての救いは動物は死を恐れない、人工授精と動物愛護、③牛の餌と人間の食料ーえさの大量輸入問題④牛肉と栄養ー食生活改善2)日本での肉食忌と解放、①肉食の禁止とその理由ー仏教と穀類中心に食生活②肉食の解禁ー幕末には京都・大坂に牛鍋屋出現、庶民の口には遠い、3)日本の肉牛=和牛、①日本の牛の使われ方ー役牛として使われ地方により大きな変異、改良の始まりと「蔓牛」の誕生②外国種との交配と和牛ー「改良和種」から黒毛和種、高級肉生産と銘柄牛の作出、規格、③牛肉のおいしさと和牛ー軟らかさ・風味‣芳香、おいしい肉は不飽和脂肪酸が多い、5ふん尿の利用、1)「ふん畜」と厩・堆肥ー牛一頭で一ヘクタールの肥料確保、耕運機と化学肥料の普及で牛が追い出された、2)牛と公害ー多頭飼育で顕在化したふん尿問題、6と体から得られる多様な製品、1)皮革は貴重品ー飛鳥時代に皮革業発達、牛馬の死や皮革製造者への賤視と排除、2)化粧品からフィルムまで多様な利用ー脂肪や骨などの副産物、血液の用途も広い、薬品源、角と蹄の利用、角は江戸時代「張形」の材料、
神々と牛
1人と動物ー心に安らぎを与える動物たち、2牛と宗教のかかわりー牛は宇宙を支え世界を担う動物、牛とヒンズー教、3牛と神道1)神社と牛ー八坂神社の牛頭天皇、牛玉宝印の護符、牛と天神、出羽三山神社と牛、2)獣肉、と「穢れ」①「穢れ」の思想ー律令時代の穢れと肉食、獣肉が供えられる②血肉とキリスト教ー血を食べてはならない、動物の血を飲むことも、3)護符と絵馬、①牛の安全を守る護符ー深い猿との関係、②牛の絵馬4)神社と祭り①豊作予祝の祭り、黒田はやし田(島根県三隅町)、国玉神社(福岡県豊前市)松会、鏡作神社(奈良県田原本町)のおんだ祭、深田神社(鹿児島県串木野市)ガウンガウン祭、鶴見神社(横浜市鶴見区)の田祭り、多冶神社(京都府日吉町)の御田祭、刈谷沢神明宮(長野県坂北村)のお作始め、徳丸北野神社(東京都板橋区)田遊び、御田八幡宮(高知県室戸市)の御田祭、野神祭(天理市新泉町)、③田遊びと牛のかかわり④牛をねぎらう祭りー石切剱箭神社(大阪府東大阪市)の献牛祭、菅原神社(宮崎県えびの市)の牛越祭、北野神社(東京都文京区)、千手院(岩手県盛岡市)のなでべコ、牛嶋神社(東京都墨田区)のなで牛、圓蔵寺(福島県柳津町)のなで牛、田倉牛神社(岡山県吉永町)の倍返し牛、4牛と仏教ー善光寺(長野県長野市)「牛に引かれて善光寺参り」、廣隆寺(京都府京都市)の牛祭、福田海(岡山県岡山市)の鼻ぐり塚、願生寺(東京都港区)の牛供養塔、牛伏寺(長野県松本市)の経巻、5牛と宗教と日本人、1)日本では牛は家族の一員2)日本では慰霊祭、西欧では謝肉祭、
牛と人間のこれから
1クローン動物のこれからークローン羊の衝撃、牛の改良・繁殖とクローンの意味、クローンから広がる可能性と不安、2牛の病気の変遷と現代の課題ー猛威をふるった伝染病、現代では「生産病」がおおきな問題、3環境問題と牛ーふん尿による環境汚染、メタンガスによる地球温暖化、4再び動物愛護についてー動物をどのように取り扱うか、動物の福祉ー「動物愛護法」、動物と共にいる楽しみ、5牛と日本人のこれからー牛とのつきあいから見えてきたもの、日本的畜産(牛飼い)を考えるせんだいせんだい
牛のかかわるさまざまな話
1説話の中の牛、1)前世や現世の罪で牛に変身させられる、2)殺生、肉食の悪、放生の善で、人はそれぞれ報いを受ける、3)仏のために牛が労力奉仕をする4)牛が仏に仕える5)牛を題材にして処世の教訓を述べる、6)殺生、肉食も善行である7)牛のあり方は国や宗教で違う、2民話の中の牛、1)牛の民話は少ない、2)人間が牛になる話、3)牛が人間になり、あるいは人間の身代わりになる話、4)牛が石になる話、5)牛の報恩、6)牛の友情、」7)ものをいう牛の話、8)牛と塩・牛と金、9)牛と山姥の話、10)牛鬼」や怪物の話、11)牛と水にかかわる言い伝え、12)「牛」のついた地名の物語、13)牛と民話、3牛と民俗・文芸、1)牛のかかわる特別な祭りと踊り、2)動物と遊び、学ぶ子供たち、①わらべ歌、童謡と牛②詩や歌と牛、3)落語と牛、4)牛の飼い方や使い方にまつわる中世の記述、5)牛の絵、4牛と玩具、1)日本の牛の玩具2)西欧では動物の骨や膀胱が玩具に、5闘牛1)勇猛な競技、2)世界の闘牛
まとめ
仙台の大学に赴任して「牛」の研究を始めた、家畜の良いことには、人に食料や生活必需品を与えるだけでなく、他にも何か、人間の在り方に関わる見えない効用があるに違いないと考え始め、停年で暇ができ書き上げたものである、日本人の動物観を知っていただきたい